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Beating 第88号
2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第6回:オーセンティックな生教材が日本人英語学習者のコミュニカティブな英語力に与える影響

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東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第88号     2011年9月27日発行
現在登録数 2,762名

2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第6回:オーセンティックな生教材が日本人英語学習者のコミュニカティブな
英語力に与える影響


http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m088

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みなさま、こんにちは!

シルバーウィーク(というのですね、近頃は)はいかがお過ごしでした
でしょうか。銀杏並木も次第に色づいてきて、仕事や研究に集中できる
季節になってきましたね。


では、Beating第88号のスタートです!

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★CONTENTS★
【特集】2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第6回:オーセンティックな生教材が日本人英語学習者のコミュニカティブな
英語力に与える影響

1. お知らせ・BEAT Seminar  2011年度第2回 BEAT公開研究会
「楽しさと学びを融合するシナリオデザイン」開催報告

2. お知らせ・UTalk 「デスモスチルスの骨」

3. 編集後記


特集 ────────────────────────────────
━━ 2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第6回:オーセンティックな生教材が日本人英語学習者のコミュニカティブな
英語力に与える影響
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■       2011/09/02 13:42:02
http://twitter.com/#!/beatiii/status/109486213844570112
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解説
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(Gilmore,2011)日本人大学生を対象に、英語学習にオーセンティックな
生教材を使用した場合と通常のテキストを使用した場合の、コミュニカティブ
な英語力を比較した研究。8つの評価項目中5つの項目において生教材群の
成績が優れていた。http://ht.ly/6jqrU

■背景と問題
語学学習に関する研究において、映画や小説、ウェブ上の情報といった「オー
センティックな素材」が学習者の意欲を高めるという指摘は繰り返しされてい
ます。本研究では、そうした動機づけ以外の側面に着目し、学習者の「コミュ
ニカティブ・コンピテンス」の発達に「オーセンティックな素材」(いわゆる
生教材)が有効であるという視点から実証的な検討を行いました。

コミュニカティブ・コンピテンスは、1972年に社会言語学者デル・ハイムズ
によって提唱されました。
(1)言語能力(語彙、構文、音韻の知識など)、
(2)語用論的言語能力(会話の目的や意図を理解・伝達する能力)、
(3)社会語用論的能力(礼儀、慣習、動作などに関する社会的・文化的に
正しいとされる知識)
(4)方略的能力(コミュニケーション上の問題に対応し会話を継続できる能力)
(5)会話能力(統一感のある会話や文書を生み出す能力)
の5つが含まれると考えられています。

コミュニカティブ・コンピテンスを構成するこれらの能力は、どの程度互い
に影響し合っているのか、またどうすれば効果的に測定できるのかなど、
明らかにされていない点が多くあります。そして、コミュニカティブ・
コンピテンスと言語教育との関係については、以下の2点が重要な問い
としてあげられます。

1. 最近の英語教育に関する教材は、学習者のコミュニカティブ・コンピテンス
が広く発達するのをどの程度助けているのか

2. 教室での英語教育において、コミュニカティブ・コンピテンスを構成するそ
れぞれの能力に注目することは、学習者の全体的なコミュニカティブ・コンピ
テンスの変化をどの程度証明できるのか

英語教育については、これまでの英語教授テキストで用いられてきた表現に
不適当なものが含まれるという問題の解決方法として、「オーセンティックな
素材」に注目が集まっています。実在する聞き手に対して、何らかのメッセー
ジを伝えるために書き手や話し手が発した本物の言葉の広がりとして捉えられ
ている「オーセンティックな素材」が、教室での英語教育を豊かなものにし
得ると指摘する研究者もいます。

■目的と仮説
そこで本研究では、オーセンティックな素材(以下、生教材)とテキスト教材
が、学習者のコミュニカティブ・コンピテンスの発達に与える影響の違いを
検討することを目的としました。その上で、生教材は言語に関する豊富な情報
を学習者に与えるため、学習者は言語的特徴に正確に気づくことができ、結果
として全体的なコミュニカティブ・コンピテンスがテキスト教材を用いた学習
者よりも発達するという仮説を立てました。

■方法
X大学英語専攻の2年生62名を、生教材を用いる実験群と、テキスト教材を
用いる統制群の2グループに割り当て、10か月間の実験を実施しました。
どちらのグループも、聞き取り能力と会話能力の向上を目的として訓練を行い
ました。実験群には、映画、ドキュメンタリー、ショー、テレビコメディ、
ウェブ上の情報、母国語話者が登場するホームビデオ、歌、小説、新聞記事
などの生教材が、統制群には、教育学的な活用を目的にデザインされた2冊の
教科書が与えられました。

10か月間のコースの開始前と終了時に、両グループの学生は、コミュニカ
ティブ・コンピテンスを測定するためのテストに取り組みました。

テストには、
(a)聞き取りテスト(b)発音テスト(c)C-test(読解テストの一種)
(d)文法テスト(e)単語テスト(f)会話完成課題(g)口頭テスト
(h)ロール・プレイの8つの要素が含まれていました。
これらのテストと、先に説明したコミュニカティブ・コンピテンス
(1)~(5)とを対応させると、
(1)言語能力の測定には(a)~(e)と(g)が、
(2)語用論的言語能力および(3)社会語用論的言語能力の測定には
(g)と(h)が、
(4)方略的能力の測定には(f)~(h)が、
(5)会話能力の測定には(a)(g)(h)が該当します。

■結果
生教材とテキスト教材という2つの異なる学習方法が、学生のコミュニカティ
ブ・コンピテンスの発達に与える影響を比較するために、2つのグループ間で
共分散分析を行いました。10か月のコース開始前の得点を調整し、コース終了
時の得点を実験群と統制群の間で比較したところ、(a) 聞き取りテスト、
(b) 発音テスト、(e) 単語テスト、(g) 口頭テスト、(h) ロール・プレイの5つ
のテストについて、生教材を用いた実験群の方が、テキスト教材を用いた統制
群よりも得点が高いという結果が得られました。それに対して、(c) 読解テスト、
(d) 文法テスト、(f) 会話完成課題については、2つのグループ間でコース終了
時の得点に有意な差はみられませんでした。

■考察
分析の結果、生教材を用いた学習者の方が、テキスト教材を用いた学習者に
比べて、全体的にコミュニカティブ・コンピテンスがより発達するという
ことが明らかになりました。
例えば、生教材を用いた学習者は、英語の音韻的特徴に注意が向くことで
自然な会話の特徴をより認識できた結果、聞き取りテストや発音テストの
得点がテキスト教材を用いた学習者に比べてより向上したと考えられます。
また、新しい単語を文脈に当てはめながら楽しく学習することや、行動の変化
をもたらす身体的コミュニケーションの訓練を生教材が可能にすることで、
実験群の方が単語テストやロール・プレイテストの得点がより向上したと解釈
できます。

それに対して、本研究で用いた学習方法が読解能力の向上を目的としていなか
った、学習者の文法能力が学習前にすでに高かったなどの理由から、読解テス
トおよび文法テストについては、2つのグループ間で発達に明確な違いはあらわ
れなかったと考えられます。

■結論
英語学習において生教材を用いることで、学習者は十分に豊富な情報をインプ
ットでき、その結果として言語的、語用論的、方略的、会話的な特徴の習得が
促され、コミュニカティブ・コンピテンスが育まれるということが明らかにな
りました。

◎特集記事協力◎
伏木田稚子/東京大学 大学院 学際情報学府 博士1年

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BEATはTwitterを利用して教育やICTに関する最新情報や、BEATに関する
情報を発信しています。Beatingで紹介している情報以外にも多くの情報を
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お知らせ BEAT Seminar   ─────────────────────
━━━━━━━━━━━━  2011年度第2回BEAT公開研究会
「楽しさと学びを融合するシナリオデザイン」開催報告
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2011年9月3日(土)に2011年度第2回BEAT公開研究会「楽しさと学びを
融合するシナリオデザイン」を開催しました。

当日の内容をセミナーレポートにまとめました。会場にお越しになった方も、
残念ながらお越しになれなかった方も、ぜひご覧ください。
http://www.beatiii.jp/seminar/046.html

セミナーでは、Twitterでハッシュタグ #beat2011を設定し、Twitter上でも
多くのコメントをいただきました。また、セミナーの様子をUstreamで中継
いたしました(サーバーに残しておりませんので、現在は視聴できません。
ご了承ください)。会場やUstreamでセミナーにご参加いただいた皆様から
集まったTweetをTogetterでまとめましたので、こちらも、レポートと併せて
ご覧ください。

▼ Togetter - まとめ「楽しさと学びを融合するシナリオデザイン
(2011年度第2回BEATセミナー)」

http://togetter.com/li/183463


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お知らせ UTalk       ────────────────────────
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「デスモスチルスの骨」のご案内
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UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、
毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、
気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場と
なっています。

10月のUTalkでは、古脊椎動物学 機能形態学をご専門にされている
犬塚則久さん(医学系研究科 解剖学教室)をお招きします。
犬塚さんは、骨化石から絶滅動物の復元を行う研究をされており、
また、主宰している「骨ゼミ」からは何人もの研究者が育っています。
1,300万年前に生息していた、現在のどの動物とも違う奇妙な哺乳類、
デスモスチルス。今回は、犬塚さんがデスモスチルス化石に関わることに
なったきっかけや、どのように科学的な復元を進めるのかについて、
お話を伺ってみたいと思います。

日時:10月22日(土)午後2:00-3:00

場所:UT Cafe BERTHOLLET Rouge(東京大学 本郷キャンパス 赤門横)

http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html

料金:500円(ドリンク付き/要予約)

定員:15名

申し込み方法: (1)お名前(2)ご所属(3)ご連絡先(メール/電話)
(4)このイベントをお知りになったきっかけ、をご記入の上、

utalk2011@ylab.jp までご連絡ください。

※申し込みの締め切りは10月14日(金)までとします。

なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。
ご了承ください。


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 編 集 後 記 ──────────────────────
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Beating88号はいかがでしたでしょうか。

アップロードされたセミナーレポートはご覧いただけましたか?レポートを
改めて読み返してみると、ゲーム界と教育界の俊傑の対決で面白い化学反応が
起きているなぁと実感しました。セミナーレポート自体がゲーム性があって、
なんだかワクワクしてしまいました。(手前味噌ですが…笑)

それでは、また次号でお会いいたしましょう!

ご意見・ご感想をお待ちしております。

「Beating」編集担当 高橋 薫 (たかはし かおる) kaorutkh@beatiii.jp

-------次回発行は10月25日の予定です。

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□ご意見・ご感想は…
「Beating」編集担当 高橋 薫 kaorutkh@beatiii.jp
(東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座 特任助教)

□「BEAT」公式Webサイト http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m088c

□発行:東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
Copyright(c) 2011. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.

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