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Beating 第48号
2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
第2回:言語教育のフロンティア 「プロジェクト」

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東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第48号     2008年5月27日発行
現在登録者名 1610名

2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
第2回:言語教育のフロンティア 「プロジェクト」

http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m048
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┃★CONTENTS★
┃■1.  特集:2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
┃
┃    第2回:言語教育のフロンティア 「プロジェクト」:
┃       EUROVOLT via VLE
┃      「言語使用の文脈を考慮したeラーニングプロジェクト」
┃
┃■2. 【お知らせ】「2008年度 第1回 BEAT Seminar 」のご案内
┃
┃■3.  編集後記
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■1. 特集:2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
    第2回:言語教育のフロンティア 「プロジェクト」:
    EUROVOLT via VLE
   「言語使用の文脈を考慮したeラーニングプロジェクト」
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近年、言語教育では、学習者の言語使用文脈に適切な言語能力の育成という
のが1つの重要な研究・実践テーマとなっています。例えば、仕事の場面で
も、お客さんとお話するときに必要な英語能力の育成はどのようにするべき
かというのが大きな課題となります。この大きな課題に対して、諸外国はど
のように取り組んでいるのでしょうか?今回は多様な言語が使用され、人的
資源の流動性が激しいヨーロッパにおける、言語使用文脈を考慮した言語教
育VLE(Virtual Learning Environment)プロジェクト"EUROVOLT"の紹介をしま
す。

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プロジェクト:EUROVOLT via VLE
国・発足年 :ヨーロッパ各国・2005年
代表者   :Inge-Anna Koleffほか
所属    :Die Wiener VolkshochschulenなどEU諸国の企業・教育機関
(VolkshochschulenはAdult Education Centerの意 )
http://vhs.at/Welcome.do (ドイツ語のみ)
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■ヨーロッパの言語学習ってどうなっているの?
前回は日本での英語学習のフロンティアを取り上げましたが、今回はEU(ヨ
ーロッパ連合)で実施されている最新の外国語学習の動向をお伝えしたい
と思います。今回クローズアップするのはEUROVOLTというプロジェクトです。
このプロジェクトは一体何なのか概観してみましょう。

■EUROVOLTとは?
EUROVOLT(European Vocational Online Language Teaching)とは、社会人向
けの外国語を指導する専門家の育成と通常の言語教育を行うための環境構築
を目指すプロジェクトでEU諸国との共同で実施されている巨大プロジェクト
です。2005年から2007年まで実施されたプロジェクトで、現在は評価の段階
にあります。その学習環境として、BBS、テキストチャットといったソーシ
ャルソフトウェアと学習管理システムと連動させて学習環境を提供していま
す。単にオンラインで言語学習をさせるだけでなく、既にある言語学習のICT
(情報通信技術)素材を使いこなせるように知識と技術を提供することも目
的に作られています。また、その素材を使って、様々な背景を持つ特定の職
業の目的に合わせた言語学習のコースをデザインできるようにさせることも
目的の一つになっています。EUROVOLTにはオーストリア、ドイツ、ノルウェ
ー、ポーランド、スウェーデン、イギリス、ブルガリアなど多くのEU諸国が
参加しています。

■EUROVOLTの特徴
EUROVOLTは学習者を中心に考え、学習素材もその人の学習文脈に合わせられ
るように配慮しています。そのため、言語使用の文脈の特性が比較的強いビ
ジネスも文脈としてターゲットとなっており、企業を取り込んで実施してい
る点も大きな特徴です。また、学習者の目的やCEFR(Common European Fram-
ework of Reference for Languages=「ヨーロッパ言語共通参照枠」)とい
う、職業など言語が使用される文脈に根ざした言語教育とその評価フレーム
ワークに沿った達成度合いを明確にし、使いやすさにも気を配っています。
教材はEUROVOLTのポータルで公開されており、受講者は受講登録をすること
で使用ができます。

■EUROVOLTのコース内容
EUROVOLTでは、まず学習者自身で時間割を考えなくてはなりません。このコ
ースには100時間を超える多くの課題が用意されているので、全てをやるよ
りは興味のあるものに絞った方がいいためです。また、課題も一人で勉強す
るものだけでなくオンラインで他の人と協同でやらなければいけないものも
多いため、各自が時間割をしっかりきめておくことが望ましいのです。

もちろんオンライン上で協同的に学ぶというのは技術的にも難しいことです。
そこでEUROVOLTでは仮想的な「教室」を作り、そこに入ることで他の人とチ
ャットが出来たり、最近起こった出来事を知れたり、教室にいる人のプロフ
ィールを見ることができるようになっており、活性化のきっかけ作りをして
います。また、個人単位で自分の時間割や学習の進行具合などを記録してい
くeポートフォリオも与えられており、それをお互いに共有しながら、互い
に評価していく仕組みも作られています。

具体的なコースの例として、外交官向けのポーランド語コースでは、対面講
義とも組み合わせて、上記の枠組みを使用しています。ターゲットレベルはC
EFRのC1レベルという、相当高レベルの学習者をターゲットとしていますが、
MasteryレベルのC2に求められる、ポーランド文化、政治、社会背景を理解
した発言ができ、ミーティングなどでそれが実践できることを目標としてい
ます。

コースの修了は、最低75%出席していること、各単元で積極的に活動してい
ること、グループワークや議論などの様々な活動に参加していることの3つ
が条件に挙げられており、オンラインで協同的に学ぶことを重視しているこ
とがわかります。また、学習者が指導者の場合は、小さい規模ではあります
が、実際にEUROVOLTの仲間に様々な資料を使ってオンライン上で教えること
もさせます。このコースが掲げている"Learning by doing and reflecting 
and adapting"(「やって、振り返って、改造することによる学び」)を見
事に実現させたカリキュラムだと思います。

■きめこまやかなシステム評価
EUROVOLTでは、デザイン−実施−評価の3つそれぞれで細かくチェック項目
が分けられており、このサイクルを何回も繰り返す方法をとっています。

EUROVOLTの評価では、まず学習者の学習対象である言語レベルのデータ、学
習スタイルを網羅した上で、EUROVOLTの教育課程で使ったeラーニングソフ
トの種類を調べ上げ、そのうちどの機能を良く使ったか、どの機能が役に立
ったかの学習者の評価をしっかりと押さえています。それによると、オンラ
イン上での課題や用語辞典は使用頻度が高い上に有効だと判断している学習
者が多かったようです。またチャットや電子掲示板なども利用頻度が続いて
高く、言語学習に役に立ったという高い評価がされています。

また、EUROVOLTによる学習効果の評価では、事前に学習者を成績順に4段階
に分け、リーディング、ライティング、スピーキング、リスニング、グラマ
ー、ボキャブラリーの5つの点数の伸びを測っています。それによると、特
に成績順で3番目、4番目の集団に位置する学習者の、リーディング、ライテ
ィング、グラマー、ボキャブラリーの得点が伸びているということがわかり
ました。今後はテストなどを実施して、テストでの伸び率やバーチャルな学
習環境における継続的な評価を行っていくということです。

■EUROVOLTが導く言語学習の未来像
EUROVOLTプロジェクトは言語教育においてとても重要な試みを2つ行いまし
た。

一つは、今までは徹底して行われなかったブログや掲示板などソーシャルソ
フトウェアでの学習についてアンケート調査をきっちり行ったことです。近
年、世界的に言語教育においてブログやソーシャルネットワーキングサービ
スといったソーシャルソフトウェアが活用されてきています。しかし、実践
という枠内のものが多く、機能、使用状況などしっかりされてこなかった状
況があります。この評価により、ソーシャルソフトウェアの有効な点と問題
点が具体化され、今後の言語教育におけるソーシャルソフトウェアの使用に
おいて、大きな方向付けになることは間違いありません。

そしてもう一つは、CEFRをベースしてeラーニングが設計され、評価されて
いることです。CEFRは先ほども述べたとおり、外国語の利用文脈を重視した
言語教育のフレームワークです。そのため企業もこのプロジェクトに参加し、
仕事で使用できる言語能力育成に本格的に取り組んだ大規模なプロジェクト
です。学習者の言語使用の文脈というのは長年、注目されている要素ですが、
EU諸国の、様々な言語使用文脈とその文脈にあった教材を共有し、その教材
を使用してコースを展開することや、一受講者としてコースの受講が可能と
なる環境は世界的にも数少ないです。今後は、言語使用の文脈における適切
な言語使用能力の向上に対してオンライン学習環境がどこまで貢献できるの
か、自己調整学習や言語能力の転移などの観点で評価するといった、言語能
力のあり方やその評価法にも1つの方向を示しているのではないでしょうか。

■ヨーロッパの動き
今、ヨーロッパでは、EUROVOLTのように、ヨーロッパの特殊な文化背景のも
と、数々の大規模な言語教育プロジェクトが展開され始めています。この動
きの背景にはヨーロッパ共同体がヨーロッパ諸国間の共同研究やICTを使用
した教育実践の共有を推進している点があります。また最新技術の導入も積
極的で、Second Lifeを使用した言語教育研究もされています(Kamimo-island
プロジェクト)。実践だけではなく、しっかりと研究するという欧米諸国の
言語教育プロジェクトは今後も目が離せません。

参考URL

EUROVOLT: http://www.eurovolt.net/
EC Joint Research Centre: http://ec.europa.eu/dgs/jrc/index.cfm
EC Joint Research Center e-learning 2.0:
http://is.jrc.ec.europa.eu/pages/Learning-2.0.html

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特集記事協力:
池尻良平/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年
山田政寛/東京大学 大学院 情報学環 特任助教
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次号の「5分で分かる学習フロンティア」どうぞお楽しみに!
ご意見・ご感想もお待ちしております。


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■2. 【お知らせ】「2008年度 第1回 BEAT Seminar 」のご案内

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先月のBeatingで予告しました2008年度 第1回 BEATSeminar の概要を
お知らせします。

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【ご案内】公開研究会「BEAT Seminar」2008年度第1回

あなたに「ぴったり」な学びをかなえる技術
-教育における協調フィルタリングの可能性を考える-
〜2008年6月7日(土)開催!〜

              ☆★☆ 登録はお早めにどうぞ! ☆★☆
http://www.beatiii.jp/seminar/?rf=bt_m048

■主催
東京大学 大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座

■日時
2008年 6月7日(土)午後2時より午後5時まで

■場所
東京大学 本郷キャンパス 情報学環・福武ホール(赤門横)
福武ラーニングシアター(B2F)
http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map34.pdf

■定員
180名(お早めにお申し込みください)

■プログラム詳細・参加方法
BEAT Webサイト セミナページ
http://www.beatiii.jp/seminar/?rf=bt_m048
にて、プログラム詳細をご覧いただけます。
ご参加もこちらのサイトよりご登録ください。

■参加費
無料

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■3. 編集後記

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Beating第48号はいかがでしたでしょうか。

今回、特集を組む中でヨーロッパにおけるICTを利用した言語教育のプロジ
ェクト関係者とお話をする機会がありました。EUROVOLTのようなヨーロッパ
の文化的・社会的背景を基に大規模なプロジェクトが成立し、その研究知見
やノウハウがEC(ヨーロッパ委員会)主導で共有する仕組みができつつありま
す。プロジェクトには言語教育だけではなく、情報工学、認知心理学、経営
学などさまざまなバックグラウンドを持った研究者が集まり、プロジェクト
を運営する動きが増えてきているそうです。日本はヨーロッパ諸国と状況が
異なりますし、研究領域別で活動することが多いため、様々な専門を持った
研究者が参加するような言語教育のプロジェクトが成立するのはこれからだ
と思います。今回の特集ではヨーロッパのプロジェクトを紹介しましたが、
日本にも興味深いプロジェクトがあります。福岡県立大学の水野邦太郎先生
が実践されている英語多読プロジェクト"Interactive Reading Community"(I
RC)は興味深いプロジェクトの1つだと思います。Laveの正統周辺参加の観点
から、IRCの参加を通じて、自律的学習者への変化を経て読書を習慣化して
いく過程について分析しています。日本でもこのようなプロジェクトをベー
スに様々なバックグラウンドを持った研究者が参加できる機会を設け、研究
をする環境と実践へ還元する機会を作っていくことが重要なのだと思います。

BEATは教材開発、評価、教育に関係する情報技術、様々な研究領域を扱って
います。今回のBEAT Seminarでは情報技術に関係するテーマを取り上げます
が、現在も実に様々なバックグラウンドをお持ちの方に参加登録を頂いてお
ります。BEAT SeminarならびにBeatingが皆様にとって、研究者の結びつき
と、大きなプロジェクトを起こすきっかけになると、BEATにいる身としてう
れしく思います。

では来月のBeatingもお楽しみに。

「Beating」編集担当
山田 政寛(やまだ まさのり)
yamada@beatiii.jp

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「Beating」編集担当 山田 政寛
(東京大学 大学院 情報学環 特任助教)
yamada@beatiii.jp

□「BEAT」公式Webサイト
http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m048

□発行
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」

Copyright(c) 2008. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.
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